Sep 26, 2016

暮しの手帖社「一戔五厘の旗」


夏の間お休みしてしまったこちらのブログ、またよろしくお願い致します。

朝のNHK連ドラ「とと姉ちゃん」、ごらんになっている方も多いかと思います。弊店でも日頃お世話になっている暮しの手帖社の方々のお話しとなれば、ふだんドラマを見ない私も「雲のじゅうたん」以来の入り込みようで、回によってはなんどもビデオを見返し、悲喜こもごも今ではすっかり小橋家とともに成長してきたかのように感じてしまいます。しかし、もうあと少しで最終回ということで、寂しいものです。

さて、前置きが長くなりました。暮しの手帖社の数多くの書物は、弊店でも長年にわたり大切に取扱いさせて頂いており、また私自身も初代編集長である花森安治さんの熱烈なファンということもあって、何度もフェアなど開催しております。出版されているたくさんの書籍、雑誌はどれも素晴らしいものばかりなのですが、今回は暮しの手帖社を代表する書物と言っても過言ではない「一戔五厘の旗」についてご紹介致します。

一戔五厘の旗は、昭和46年までに発刊された暮しの手帖の中に掲載された、花森さん自身が書かれたコラム、エッセイの29編からなる自薦集です。一戔五厘というのは先の戦争中、日本軍が国民から兵士を集めるためのハガキ郵送に要した切手代一銭五厘のことで、旗は家庭にあるボロを縫い合わせて作られ、戦火の当時、庶民の安らかな暮しをいとも簡単に奪っていった世の中をかき乱すもの、横暴なものすべてに対する反旗として掲げられるものです。膨大な数の花森さんの過去の執筆文の中から選りすぐられた29編は、反権力のジャーナリストとしての花森安治を象徴するものとなっています。

ちょうど昭和40年頃と言えば日本は高度経済成長のまっただ中。平和とともに人々の暮しも大きく変わりながら、戦禍の記憶が薄れ、公害、政治の不信など大きな問題も現れてきた頃でした。そのような時代背景の昭和46年10月にこの初版が刊行されました。

タイトルにもなる6章「見よぼくら一戔五厘の旗」では、人々の中にある権力者への畏怖や諦めなどの思い込みを「ちょんまげ野郎」と揶揄し、皆が7円切手のハガキで要望を送り、ボロで作った旗を掲げて自分たちの暮しを守ろうと訴えます。9章「もののけじめ」では、当時の日本人の堕落ぶりを、公私混同、役人の仕事ぶり、政治、企業体質、テレビ番組などをあげ、人生のルールや倫理についてとうとうと批判。11章「重田なを」では、明治に生まれ19歳にして新潟から東京へ単身移り、厳しい環境からハンドバッグ製造で成功するまでの厳しくも凛とした生き様を掲載。終章「国をまもるということ」では、(以下抜粋 ~ なんのために「くに」を守らなければならないのか、なんのために、ぼくたちは、じぶんや愛する者の生命まで犠牲にしなければならないのか~)について掲載されています。他、ドラマで話題の商品テストについての章もあります。

*実際は章に番号は振られていません。


ドラマとと姉ちゃんでは、戦争の悲惨さを味わった常子(大橋社長)と花山(花森)との会話の中で「毎日の暮らしを犠牲にしてまで守って戦うものなど何も無かった~暮しは何ものにも優先していちばんだいじなものなのだ」というシーンがあります。戦争は国同士が引き起こすものではありますが、国民がふだんの暮しを守るためにもっと声をあげていれば、あのようなことにはならなかったのではないか、ということでしょうか。この会話を機に2人は「豊かな暮し=平和」を胸に、出版社を立ち上げました。

その後、大きな出版社に成長するのですが、ドラマの中では商品テストなどで発行部数が大きく伸びたような印象を受けます。しかし、暮しの手帖社は、国や企業、世間の習わしなど世の中に存在する多くの「ちょんまげ野郎」と正面から向き合ってきたことにより、庶民からの多くの支持を受け成功したのかなと思います。そのような精神が込められているのがこの「一戔五厘の旗」なのでしょう。

後世に残したい1冊です。

「一戔五厘の旗」価格2,300円+税


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