Apr 1, 2015

川端康成 / 古都

今回は文庫本のご紹介です。

「古都」は、よく学生時代に読まれる本というイメージもあるのですが、自分は最近読みました。
おおまかなあらすじは、京都の山間、北山杉の村に双子の姉妹が生まれ、ひとりはその生家で育てられ、ひとりは捨て子として室町の裕福な商家に引き取られます。
田舎暮らしの質素な苗子と、美しく端正に育った捨て子の千重子は、互いの存在を知らぬまま成長しますが、二十歳となった祇園祭りで二人が出会います。昭和の京都を舞台に、姉妹の切ない物語が、春に始まる四季折々の祭りや風物の情景を背景にしながら繰り広げられる小説です。


この本を、手にしたきっかけは、なにかの書評で春の表現がとても美しく書かれていたのが気になったことからでした。そのあたりを少しつらつらと。


第1章は春です。ー部以下引用。
ー もみじの古木の幹に、すみれの花がひらいたのを、千重子は見つけた。「ああ、今年も咲いた。」と、千重子は春のやさしさに出会った。ー

曲がりくねった老木の、千重子の背たけほどのところに、1尺ほど離れて2株のすみれが毎年咲くようです。何度読んでも、美しく、ほの悲しい、春との再会を感じる書き出しではじまります。

ー「上のすみれと下のすみれとは、会うことがあるのかしら。おたがいに知っているのかしら。」 ー

2株のすみれ、うねった老木の幹が、姉妹のおかれた境遇に比喩されていると思いますが、この小説を読み返す時、姉妹の切ない運命が心に染み入るところです。

そんな、花ぐもりぎみのやわらかい春の日からはじまります。



夏、秋、冬のはんなりした情景が、ページを繰るごとに浮かび、物語は進みます。
また、全編にわたっての京都弁がいっそう古都を盛り上げるのですが、川端康成氏は,あとがきの中で、京都の人に頼んで言葉を直してもらったと書かれています。

ー「そんなとこで、よう咲いとおくれやしたな」ー
ー「今の親が可愛がってくれはるし、もうさがす気はあらしまへん。
うみの親は、仇野のあたりの無縁仏のうちにでもおいやすやろか。あの石はみな古うおすけれど、、、。」ー

ゆっくり読みますと、遠い子供の頃に聞いた、親戚のおばちゃんたちのイントネーションが思い出され、「いややわあ、よういわんわあ」などの、にぎやかなおしゃべり場面が目に浮かびます。



まだ京都の慣習、言葉などが色濃くあった昭和30年代の四季折々の名所や風物、そして,京ことば。はんなりな文庫片手に、春の京都散策など、いかがどすか。。。

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